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行き止まりは、どこにもなかった

行き止まりは、どこにもなかった

新!コテ派な日々~第十九話~(番外?Dead Data@第九話)

喫茶を遠く離れ、路地裏。

少々ピンクな看板が多く立ち並ぶ裏通りに私達は隠れていた。

閃光騨、もしくはそれが引き連れるヤキムシ。

糊塗霧隙羽、もしくはそれが引き連れるsiwasugutikakuni

その何れかも追い掛けて来る事は無かったらしく、安堵の声をつい洩らしていた。

私たちは何とか逃げ出せた…。かなりギリギリだったがな。


「…さて、どうしようか。」


彼女はあの時言った、戦うと。

私は元々その気だったから賛成だが、今の大敗を考えると私を散々引き止めていた彼女の意見こそ尊重すべきと思う。

が、彼女はなんとも暗い雰囲気で溜息を吐いていた。

…大きな懸念は、結局推測の域のままで確実に否定した訳ではないものな…。


「…バレてるんだよね…動向。」

「…そうだな。そう言ってた」


私が考える懸念を、彼女が言葉にする。

結局どの程度バレているのかは分からない。泳がされていた理由もだ。

そうなって来るとかなり動き辛い。その際中に襲撃されるとかなり脆いだろうから。

だからこそ、この先どうすべきか。私は思案しかねていた。

だからこそ、彼女にそれを託した。これまで慎重に事を進めてきた彼女だからこそ。

だが、帰ってきた答えは全く私のそれらの予想を裏切った答えだった。

ふぅ、と溜息をもう一度吐いた後、思い立った様に立ち上がり、拳を握って彼女は言う。


「突っ切ろう」


…思考が止まり、耳を疑う。

たった今我々はどうなった?何も出来ず逃げてきただろうに何故そうなる?

これまでの君の慎重さは一体どこへ旅立ったというのか。


「正気か?」


心の底から心配しそう尋ねてみたが彼女はハッキリ強く頷いた。

…確かに、もうこうなったら逃げても大した意味は無いだろう。

こちらの情報…特に能力がバレている。と言う事は既にある程度の対策は考えられてると見ていい。

実際閃光騨は私を叩けば、きっと“自分と相性が悪い”彼女が助けに来ると踏んで戦っていた。

そしてそこへ彼女と相性が悪い糊塗霧をぶつけてきた。恐らく今後も同じ手で来るだろう。

かと言って逆手に取れる程相手の情報を握っていない。

今戦って相手がどう動くか見て判断して逃げ出せた程度。それが限界。

その状態で逃げ続け、いたちごっこを続けても、体力が先に尽きるのは我々だ。結局負けは目に見えている。

…とは言え、ヤケクソで行動していいのか?というのが私が正気を疑う理由だ。

彼女は強い意志を持ってこれまで地下に潜み、機を伺い続けて来た。

それを、そんな形で投げ出して本当に彼女は納得するのか?

そう、尋ねようとすると、彼女が先に口を開いた。


「…正直、半分ヤケクソはあるよ実際。」

「だったら…」

「あるけどさ。」


…その上で、と彼女は続ける。なので私は黙る。

考えがあっての答え、と言う事らしいからな。


「多分…情報を握ってるって、ある程度ハッタリだと思う。」


…それは、正直私も思った。

だからこそ、会話の途中で突然攻撃なんて無茶もやったしな。

あまり意味はなかったが。

だが、確信するには情報が足りないと思ったが為に動向を知られている、これがネックだと考えたんだが…。


「あいつらが言ってた情報…結局能力だけだったじゃん。
  “動向を知ってる”って言いながら、これまで何してた、とか普段どうしてる、とかなんて情報は出してこなかった。」

「てか知ってたら言いそうだったじゃん。あいつ、ペラペラ能力バラしまくってたし。」


そう言われるとそうだ。能力以上に我々については全く奴は情報を出してこなかった。

なのに、糊塗霧は自分の情報…。自分の知る事に関してはどんどん漏らしていた。

自分が土の能力者だと名乗り、かつsiwasugutikakuniは金の能力者だと紹介していた。

そして自分が何が出来るかも殆ど隠さずバラしていた。それを考えると…確かにおかしい。



「それに動向が完全に知られてるんなら…私や君がある程度の間潜伏したり出来るのはおかしいでしょ」


それもその通りだ。

…ここまで来て、やっと私は確信に至る。奴らはあまり情報を持っては居ない。

やはり慎重にこれまで事を為してきただけある。かなり深い考察力だな。

…って待て待て。どの道それがどう“突っ切る”に繋がるんだ?

慌てて私は改めて聞き返す。正気か?と。


「…結局、能力はバレてる。そして、私達は劣ってる。」

「としたら後はもう、不意打ちしかないじゃん。」


そう言いつつ彼女は私の持つ銃を見つめる。

…不意打ち。あの時私がやった様に、か?


「あの時、アイツは君の攻撃を避けなかった。…いや、多分避けられなかったんだよ。」

「どれだけ化け物じみた能力やら身体あっても、そこは人間程度なんじゃないか、って思ったんだ」

「後はまぁ…私のこの考えが違った場合…ノコノコ今から隠れ家戻ってあいつら居たらやられるじゃん」


まぁ…それもそうか…?

要するに彼女は、“遅かれ早かれ、打って出るしか無い状況に既に追い込まれた”と言いたい訳だ。

だからこそ、先の発言…“突っ切ろう”に繋がると。


「不意打ちでガツン、と潰しては隠れ、潰しては隠れ…この作戦である程度相手を翻弄しつつ減らしていこう」

「その上で…手薄になった時に大本、ロドクを叩く。それでまとめて終わり。もうそれしかない」


…そう彼女は強く拳を握ったままで力説するが、その作戦、一番大事な部分が抜けてないだろうか。


「…奴らは倒した所で補充されるだろ?常に50人に保つ位だ。」

「それで不意打ちを対策されたらおしまいなんじゃないか?」


そう尋ねるも、彼女は首を振った。

だが実際相手は常に同じ数で存在してるじゃないか…?


「見てる限り、補充を受けるのは恐らく、シワやヤキムシみたいな奴だけだと思うよ」

「どういう事だ?」

「ああいう知性や人格があまり無い量産型しか補充されないと思う。
       他はウィルスだって組み込まなきゃならないし。増やすのは難しいんじゃない?」

「何故そう思うんだ?」

「もし私なら、抵抗が強い…幾らか自分の手下を殺す奴が出て来た時点で殺された奴を補充する位なら
  新しく強い奴を作ってさっさと抵抗が強いコテを殺そうとするよ。けど、それを何故かロドクはやってこない。」


…確かにそこは不自然ではある。

ウィルスを用いた事で、最強の存在となったらしいコテ、ロドク。

そいつが自ら戦う事はせず、自分の持つ他のコテ、それも人格を与えて手下としているコテ達

更にその下に人格を持たない量産型のコテ。それらに常に街を見張らせ、他にコテが居ればすぐに殺すよう命じている。

そこまでする様な臆病とすら思う程慎重な奴が何故手っ取り早い手段を使わないのか。

そう言われたら確かに彼女の主張も間違っていないような気がする。


「だから、人格を持った奴らを倒して、隠れては多分通用する。だからそれで突っ切ろう。」


再び、力強く宣言される。…まだ気になる点があるんだがな…。

それを指摘した所でどうせもう他にやれる事はあるまい。

時間はそう多く残されてるとは思えない。

この状況、恐らく奴らも面白くないだろうし何らか計画があるなら急いで進めようとしてくる頃合いだろう。

そんな中、これまでと同様に隠れ家で少しずつ情報集めなんて悠長な事も

これから山にこもって修行、なんて少年漫画的展開もやってる余裕は無いだろう。

そう思い、私は1つの懸念を飲み込み、頷いた。


「…君はどちらかと言えばもっと保守的だと思っていたんだが…」

「えー?そうかなぁ。」

「そうだよ。これまで散々私は止められてきた。…それで助かって来たんだが」

「…まぁあの時吹っ切れたしね。後はー…多分、君の影響。なんてね?」

「おいおい…」


そう言って彼女は心底楽しそうに笑っていた。

しかしその手にはしっかりと銃が握られ、これからの戦いへの強い意志を感じた…

と、思いきや彼女は突如、間抜けた声で


「って事でこれから戦っていかなきゃなんですけどなんか作戦あります?」


と尋ねてきた。

先程までの強い意志を持った彼女はどこへやら、

がっかりするやら、そんな彼女を少し尊敬した自分が恥ずかしいやら微妙な気持ちになる。

そんな雰囲気を察してか、恥ずかしそうに彼女は笑いながら言い訳をしている。


「へ、へへへー…いやぁ、だってねぇ?元々戦うのそう得意じゃない方だしー…。作戦は考えても戦闘法は、ねぇ…?」


そこは正直私もそう得意ではないし、私の能力有りきで考えてるものだと端から決めて掛かってたくらいだからな。

あまり強くは責められまい。なので、仕方がないから一緒に今後の作戦を話し合う。

そもそも、私に振られても私だってそう戦闘経験が多い方でもないんだ。

だから二人で色々補強しながらしていくしかない。と思ったがそれでも何も浮かんでこない。


「あぁ、やっぱ長期戦になるかなあ。てかあの部屋戻る?あ、その前に暖房ほしいな、冬考えると」


いや、戻れないって話は何処に行った。時間がないから突っ切る話だったんじゃないのか。

人が真剣に考えてる中何を呑気な。慎重な君の方が今の私にはだいぶ有り難いぞ…。帰ってきてくれ。

と言っても私もだいぶ煮詰まってきたので、少しガスを抜きたいし、適当に同調して現実逃避してみるかな…。

あまり突付いて怒らせても面倒だしな。お互い。


「それは薪を燃やす様な暖房か?…あんな所で使うのはオススメ出来ないがな」

「そうだねー。…あぁ、でも意外と薪に出来そうな枝って少ないんだよねー。
          まぁ、何故か街路樹とかは殆ど破壊されずに残ってるから使えるだろうけど」

「ほう…それならまぁ燃やす物はありそうだな。そうなると一度枝を折って乾燥させて保管しておくか…」

「え?乾燥?何で?」

「…いや、枝に水分があるとよく燃えないだろう。臭いも出るし、弾けたりする事もあるぞ」

「マジかー。適当にぶち込めば燃えるから街路樹そのまま突っ込もうと思ってた」

「素人か!幾ら木が燃える物とは言え、それにだって限度があってだな!ある程度は…ん?」


ただ、現実逃避に妄想を語ってガス抜きをしているに過ぎない筈だった。

が、今、私は彼女との会話にヒントを得た気がした。閃いたのだ。


「限度がある…そうだ。それはきっと、五行、能力と言えど同じなんじゃないか…?」

「え?」


彼女は今の会話で私が何を思い付いたのかまでは分かっていない。

首を傾げて怪訝そうな雰囲気を出している。

そりゃそうだろう。端的に呟いただけで完全に思考を読み取れるならそれはもうそういう能力者だ。

しかし、私の中ではもう既にそれを元にして計画が組み立てられ、今完成した。

ただ、試す手段がほぼ無い為にぶっつけ本番でやるか、無理に試すしか手段がない。


「…私に賭けるんであれば、一つだけ作戦を思い付いたのだが…乗るか?」

「…うん、いいよ。どうせ私なんも思い付いてないし。」

「だが、かなり一か八かだ。試すにしてもそれなりに無茶だしな。どうする。」


彼女は、ちょっと考える風な動作をした後、サムズアップ。OKサインと見て間違いないだろう。

これから試すのか、ぶっつけ本番で行くのかを尋ねた所、ぶっつけで行くとの事。やっぱ彼女の慎重さ家出している。

だが、私とて全く自信が無い訳でもない。やる事は簡単だ、後は滞りなく奴らにぶつかれるか、それだけだ。














「もー…ことちゃんがもたもたしてるからー…めんどくさーいー」

「ハハハハ!!すまんなぁ…。奴ら、何処へ行ったんやらなぁ!?」


ズン、ズンと大きな足音と共に二人の話し声が聞こえてくる。どうやら奴らが来たらしい。

そして二人だけで移動してると言う事はヤキムシやsiwasugutikakuniは居ない。

それなら尚更、不意打ちはしやすかろう。相手はどうやらこちらをだいぶ軽く見ている。

他のコテにも言える事だが、奴らはどれもロドクと基本となる性格が恐らく同じだ。

だからか、どのコテも似たような特性をたまに感じる。

その1つがこれ、相手を見下し“手を抜く”事。

これも含めて彼女は突っ切ろうとしていたのかもしれない。

…それが成功するかは今回の戦闘に全て掛かっているのだが。

こっそりと物陰から二人を見る。すると糊塗霧は相変わらずあの巨体で移動していた。

その肩の上に閃光騨が乗り、ペチペチと糊塗霧をたまに軽くはたいている。

…出来れば、二人がバラバラに行動している方が作戦は実行しやすかったが…まぁそこは仕方ない。

それに、相性で言えば閃光騨だけならば彼女一人で何とか出来る。まぁ、今日範囲内と言う事だ。


「しっかし、随分と逃げられたもんだなぁ…。うーん、困った困った!ハッハッハ!」

「ことちゃんのせいじゃーん…。もー…。…ん?」


ちらり、と閃光騨が私の方を見る。

まずいな、気づかれたか?いや、でも気づかれたのが私ならまだ平気だ。

彼女は他の場所に居るし作戦通り、躍り出るとしよう。


「…もう追いついてきたか…」


わざとらしくそう言うと私は銃を構え、二人を睨む。

再び逃げて気を引く手もあったが、それだと相手は私に追いつけない。

そうなると作戦も実行しづらい。結果、戦う振りをすることに落ち着いたが…。

自分で計画したとは言え、中々に荷の重い役割だ…。

この二人を引きつける戦闘…その間に私が死なないといいがな。


「おぉっと、やぁーっと見つけたぞ!先程は全くそちらの力を見ていないからなぁ!ドン、と来てもらおうかぁ!」

「…まーたそうやってすぐやられないでよね」


少々呆れた様子の閃光騨をよそに、糊塗霧は先程と同じく拳を振り上げる。

そして力を溜めてでも居るのか、振り上げた体勢で止まっている糊塗霧。

その間にぴょんっと閃光騨が肩から降りてこちらに向けて矢の様な形の炎を飛ばす。

時間稼ぎしつつ更に攻撃力を高めた攻撃で一気に攻めるつもりか?だが…


 ディープシー ロール レイン
「深海の様な包み込む風雨!!」

「む、なんだ!?」

「しまった、もうひとりのやつだ!」


激しい雨が壁の様に降り、相手二人を完全に包み込む。

更に、その雨は水のキューブの様に固まり、そのまま二人を閉じ込めた。

だが、じわじわとその水深が減っていく。土の力の糊塗霧、その力で水を吸収しているのだ。

一方の火の能力の閃光騨は水の中で苦しそうに藻掻いている。

身体能力が通常より高いとは言え、相性の悪さには流石に勝てないらしく、苦しそうだ。

かと思ったら糊塗霧がその閃光騨を掴みあげると、力いっぱいに投げ飛ばした。

閃光騨は水のキューブから飛び出し、地面に転がる。

ゲホゲホと咳き込みながら乱暴にされた講義か一度糊塗霧を睨むが、すぐこちらに向き直る。

まぁ、こうなる原因を作ったのは我々だからな、怒りを向ける先としては正しいだろう。


「しぬかとおもったぁ…よくも!!」

「…お互い様だろう?さて、向こうはまだ出て来ない様だ、一騎打ちと行くか?閃光騨」

「しないもん!!」


そう言うとボトボトと、どこからかヤキムシが降ってきた。

まさか!?と思って上を見上げるとそこには喫茶の時と同じく、ヤキムシがビルの壁に張り付いていた。

更に、その屋上なんかにはsiwasugutikakuniの姿も見える。くそ、居ないと思ったらそっちに居たのか…。

その上…


「ぬぅん!!」


ザパンッ!と水のキューブが弾け、糊塗霧が現れた。

やはり殆ど足止めになりはしないか。何せ相性が悪いんだからな。


「各個撃破でも狙ったか!!だが、私は土の能力者!水など全て吸収するのみ!無駄な事だぞ!」

「…そうか。」


ザァアアアアア!!

再び、大量の雨が糊塗霧に向かって降り注ぐ。

先程と同じ技による拘束に少し糊塗霧は面倒臭そうな顔をしながら先程よりも素早く、水のキューブを破壊する。


「…無駄だと言っている!!なんだ、嫌がらせのつもりかこれは!」

「効かないんだろう?なら嫌がらせも何も無いじゃないか。」

「効かない!効かないがイラっとするぞ!!」


そんな事を叫んでいる糊塗霧など意に介せず、更にもう一度同じ技に依る雨が糊塗霧を覆う。

一応、この雨によってヤキムシの行動を止める様にも、閃光騨の攻撃を止める様にもしている。

だからどちらも動きはないが…閃光騨も糊塗霧も徐々にイライラが募ってきている様子だ。


「ことちゃん!!!もうはやくあいつころして!!」

「ゴボッ、分かっている!!!しょうもない悪あがきを繰り返してまともな戦闘を行わないなどふざけている!!」


そんな会話をしている二人にまたもダメ押しとばかりに大雨だ。

そこでついに糊塗霧が吠えた。




「いい加減にしろぉ!!!!もういい、知ったことか、このまま攻撃だ!!待ってろ閃光騨!水の能力者を先に殺す!!!」

「おねがい!!ほんとうざい!ほんっとうざいからあいつ!!!」


水のキューブもそのままに、攻撃の体勢に入る糊塗霧。

まずいな、ターゲットが彼女に向いた。

とは言え、彼女は私とは別行動で隠れてるまま。相手はその姿をまだ見つけて居ないと思うが…

あの攻撃力だ、そこらのビル群もろとも潰しに掛かられては何れ彼女は殺されてしまう。

そこへ、私の攻撃を加える。


ターンッ!


「ぬ…?なんだ、お前も私に嫌がらせをしようと言うのか!!!」

「…そのつもりはないんだがねぇ」


何故か銃は普段の超火力を見せず、軽く糊塗霧の身体にめり込む。

ただ、今ので一応私の作戦は上手く進行した事も確認が取れた。

ので、そろそろ戦闘を終わらせるとするか。


「行くぞ貴様らあぁあ!!!」


怒りに任せ、力を溜めきったらしい糊塗霧が思い切りその拳を地面に叩きつける。

グチャァッ!!

これまで響いた音とは違う音がすると共に、糊塗霧の腕が崩れ、飛び散る。

当然これまでの様に地面がへこむ事もせり上がる事も無いままで糊塗霧は混乱する。


「君!」

「っ!あぁ!」


ビルの窓から、彼女が私に向けて銃を投げる。

先程使ってた銃は何故かあの火力が出なくなっていたから、交換と言う事だろう。

素早く受け取ると私は銃を糊塗霧の顔面に向け、引き金を引いた。

ドォンッ!!!

いつも通りの激しい発砲音。粉々に吹き飛ぶ土の身体と本体の糊塗霧。

何が起こったか分からないらしい閃光騨は、その様子を呆然と見ていて…

やがて、叫んだ。


「ことちゃああああああああん!!!」


私は先程ビルから顔を出した彼女の救出に向かおうとそっちへ視線を移す。

今にも、ビルの窓からsiwasugutikakuni達が侵入し、彼女を追い詰めようとする瞬間だったが

突如siwasugutikakuniがピタリ、と動きをとめたかと思うとそのまま落下し、地面に叩き付けられ砕けた。

…どうやら、こいつらも糊塗霧が元々乗ってたロボットと同じ様な物だったらしく、

指令を出していた糊塗霧が死んだ事で操作する人間が居なくなり、機能を止めたらしい。

ヤキムシの方はまだ、閃光騨が居るから動けるだろうが、こちらはどうせ彼女の能力で封殺出来る。つまり…


「お前の負けだな、閃光騨。」

「…。」


先程糊塗霧が立っていた所を見つめたまま、背を向けて返事をしない閃光騨。

しかし、その背中からでも十分に怒りは伝わってくる。

こいつらでも仲間意識は持っていたのだろうか。少々可愛そうな事をした…

などとちらりと思ったが、その考えを振り払う。その甘い考えで私達は先程窮地に陥りかけたのだ。

もう奴ら相手に同情など出す事はすべきではない。私は油断無く銃を構え、閃光騨の動向に注意を向ける。


「ヤキムシも君も火の属性だ。攻撃手段は無かろう。siwasugutikakuniは停止し、糊塗霧は死んだ。さぁどうするんだ」

「…」


閃光騨は無言で振り向き、拳を振り上げると、何かを地面に叩き付けた。


「!?」

「ゆるさないから!!!ぜったいに!!!!!」


パァンッ!!と甲高く弾ける音と共に、閃光騨も同じく花火の様に弾けて消えた。

その花火も、当たりの水にすぐ掻き消されてしまったのですぐなくなった。

…逃げられたらしいな。


「…まぁ正直安心してる。甘いと言いながらも私もあの子を傷つけたいとは思ってなかったからな…」


今頃ながら、私も彼が“子供”のコテであると認識したのだ。

他よりも小柄な体格、そしてあの舌足らずな喋り口調。

更に、奴は殆ど一人で行動する事無く誰かと常に居た。保護者代わりとしていたんだろう。

だからこそ、糊塗霧がやられたと同時に逃げたのだろう。

そういう所から、子供っぽいな、と思ったのだ。

ヤキムシは人格を持たないコテだから、保護者としては足り得ない。

寧ろどちらかと言えばペットの様な物だろうしな。

その上で分が悪いとなれば逃げる他ない。

そういう合理的な行動に関しては子供らしからぬ様に思うが、そこはロドクのコテだからと納得する事にする。

まぁ、どうせ相手が子供だろうとなんだろうと関係無い。どうせ敵だ。いつかは…戦う事になる。

その時を想像し、少し憂鬱になりながらも自分の成した事を思い出し、少しやり遂げた気持ちになる。

ついに、不意打ちとは言えロドクのコテを一人倒したのだ。


「…まさか、本当に私の能力で倒しちゃえるなんて…。でも、何で?相性悪い筈なのに…」


ビルから脱出してきたらしい彼女が、不思議そうな雰囲気で私に尋ねてくる。

うーん、説明は簡単なんだが…ある程度は自分で予測して気付いてほしいもんだがなぁ。

そんな事を思いながらも私はとりあえず説明に入る。


「…さっきの話で君と話したろ。“何にでも限度がある”ってな」


先程の現実逃避の為の会話。その中出て来た話で私は思い付いた。

水は土とは相性が悪い。その理由は水は土に吸収されてしまい効かないから。

だが、そこに果たして全くの限度はないのか?いや、無い筈は無いだろう。

地面に水を染み込ませるのとは話が違う。何せ相手は土で身体を作って操っていたのだから。

私のそんな目論見は見事に当たり、相手は水の吸い過ぎによって身体を崩し、混乱した。

ただ、私が懸念していたのは能力的な物…。

土であれば操れるのなら、その崩れた土も操り、攻撃や強化は恐らく可能だった。

だから、そこまで想定されていたら寧ろやられたのはこちらだったし、そもそもこの作戦は相手が崩れる事前提。

水を吸う事に限界が訪れなければやはり我々が負けていた。だから、賭けだった…だが。

実際は上手くいき、ついに奴らの一人を倒したのだ。

出会って即撃破出来た事を考えてもかなりの大金星だろう。


「…でもさぁ、結局トドメは君ならさ、どの道打ち抜けたんじゃないの?」


少し疑う様な口調で彼女が話し掛けてくる。

…えーっと、それは…。


「いや、狙いを定める必要があったからな。相手の動きを止めるのにこの工程は必要だったさ」


と言っておいたが実際は実は微妙だ。

そもそもあの火力ならある程度狙いが外れても当たる。

それこそ、胴体や腕なんかを間違って狙わなければ問題なく相手を倒せていただろう。

正直それを忘れてた所があるが、そこは敢えて言わないでおこう。

うん、私の作戦は完璧だった!それでいいじゃないか!なので、話を変えていく。



「そう言えば…結局私の能力は何の属性なんだろうな?それに、あの時突然能力が出なかったのは一体…」

「いや、それはもう分かるでしょ…」

「え?」


今度は先程の私のように彼女が“少しは考えて欲しい”みたいな態度を取る。

そうは言われてもな…それらしい部分なんて全く…。


「多分火だよ。」

「火…?」


そう言われてやっと、私は思い至る。

そうか、突如能力が出なかったのは彼女の雨で消えていた為。

“火”力の強化。その時点で能力は火に関わる物…と分かりそうなものだった。


「そんでそれ考えるとやっぱ私が何もしない方が上手く行ってたんじゃないって思うんだけどー…」

「…あ。」


…。

そう言われると割と返す言葉がない。

ので、私は何も言わず移動を始める。


「ちょ、ちょっと!」

「け、結果オーライオラーイ!!事実、倒せたんだ!それより次!次を考えねばならない!まだ相手の事も分かってないしな!」

「もー…」


怒りを露わにしながらも、彼女は私と共に歩く。

この戦闘で、ただただ絶望しか無かった現在の状況が大きく変わったのだ。

二人なら、何とか倒せるかも知れない。

この世界を変える事が出来るかもしれない。

そんな希望を持った事が、二人の気持ちにも明るさをもたらす。

それは、そのままお互いの信頼にも繋がる。

頑張ろう。

必ず、この戦いは終わる。

そして、平和な世界を取り戻すのだ。





つづく。


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